文学とは?

文学は、小説、詩、短歌、俳句、戯曲などの作品を対象に、人間の感情や思想、社会、文化などを探究する学問だ。作品にどのような意味が込められているのか、どのような表現によって読者の心を動かすのか、そして作品は時代や社会とどのように関わっているのか。こうした問いを、作品の言葉や構成、歴史的な資料などを手がかりに考えていく。

たとえば、ある小説に「自由」を求める登場人物が描かれていたとする。その人物は、なぜ自由を求めているのだろうか。家族や社会との関係が影響しているのか。それとも、作品が書かれた時代の政治や文化に関係しているのか。物語の展開や登場人物の言葉を読み解き、作品の背景を調べることで、物語をより多角的に理解できる。

ここで重要なのは、文学研究が単に作品のあらすじや作者の意図を調べることではないという点だ。同じ作品でも、読む人や時代によって受け取られ方は異なる。また、作者が何を考えていたかという問題だけではなく、作品がどのような言葉で構成され、どのような意味を生み出しているのかも研究の対象になる。

文学研究には、大きく分けて日本文学と外国文学という領域がある。

日本文学では、『源氏物語』や『万葉集』などの古典から、夏目漱石や芥川龍之介らの近代文学、現代の小説や詩まで、幅広い作品を扱う。時代ごとの言葉や表現の変化を追ったり、作品を通して日本の社会や文化の移り変わりを考えたりする。

外国文学では、英米文学、フランス文学、ドイツ文学、中国文学など、さまざまな国や地域の作品を研究する。作品が生まれた文化や歴史を理解するとともに、日本文学との比較を通じて、それぞれの文化に固有の特徴や、人間に共通するテーマを探ることもある。

もちろん、文学研究の対象は小説や詩だけではない。作品が映画や演劇、漫画などに翻案されたとき、物語や登場人物の描かれ方がどう変わるのかを研究することもできる。文学は、言葉を入り口に、人間の営みを幅広く探究する学問なのである。

具体的にどんなテーマや研究があるのか

文学研究では、作品そのものの表現を読み解く研究から、作品が生まれた社会や文化を探る研究まで、多様なテーマが扱われている。ここでは、代表的な研究の切り口を紹介しよう。

作品の言葉や表現を読み解く

小説や詩では、言葉の選び方や文章の構成によって、読者に伝わる印象が大きく変わる。文学研究では、比喩や象徴、語り手の視点、物語の構造などに注目し、作品がどのような仕組みで意味を生み出しているのかを考える。

例えば、同じ出来事でも、登場人物本人の視点から語られる場合と、第三者の視点から描かれる場合では、読者が受け取る情報や印象が異なる。物語の語り方を分析することで、読者が登場人物に共感する仕組みや、作品に仕掛けられた表現上の工夫が見えてくる。

また、詩や短歌では、限られた言葉の中にどのような感情やイメージが込められているのかを探究する。普段何気なく使っている言葉も、文学作品の中では特別な意味を持つことがある。言葉の働きを丁寧に読み解くことが、文学研究の基本となる。

作品が生まれた時代や社会を探る

文学作品は、作者が生きた時代や社会と無関係ではない。戦争や貧困、家族制度、ジェンダー、都市の発展など、社会のさまざまな問題が作品に描かれている。

例えば、明治時代から近代にかけての小説を研究すると、近代化によって変化する人々の価値観や、個人と社会の関係を読み取れることがある。また、戦争を題材とした文学を比較することで、時代や立場によって戦争の記憶や表現がどのように異なるのかを考えることもできる。

このような研究では、作品だけでなく、当時の新聞や雑誌、書簡、歴史資料なども手がかりになる。文学を通じて、歴史の教科書だけでは捉えきれない人々の感情や生活に迫ることができるのだ。

日本文学と外国文学を比較する

異なる国や地域の文学を比較すると、文化の違いや、人間に共通する関心が見えてくる。

例えば、日本と海外の物語では、家族や恋愛、死、生き方などがどのように描かれているのだろうか。同じテーマを扱っていても、登場人物の行動や物語の結末、表現の仕方は、文化や時代によって異なる場合がある。

また、ある国の文学作品が翻訳され、別の国で読まれるとき、どのような表現が選ばれ、どのように解釈されるのかを研究することもできる。翻訳によって失われるニュアンスがある一方、異なる言語で読むからこそ見えてくる作品の特徴もある。

こうした比較研究は、自分が慣れ親しんだ文化を相対化し、異なる文化や価値観を理解する手がかりになる。

ジェンダーや社会の価値観を問い直す

文学作品には、その時代において当然とされていた価値観が描かれることがある。一方で、作品の中には、そうした価値観に疑問を投げかけたり、社会の周縁に置かれた人々の視点を描いたりするものもある。

例えば、女性の登場人物がどのように描かれているのか、誰の視点から物語が語られているのかを分析すると、作品に表れたジェンダー観や権力関係が見えてくることがある。人種や階級、植民地支配などを切り口に、社会の中で声を上げにくい人々の経験を読み解く研究もある。

こうした研究では、フェミニズム批評やポストコロニアル批評などの考え方が用いられる。文学作品を通じて、社会の仕組みや価値観がどのようにつくられ、受け継がれてきたのかを考えることができる。

現代のメディアと文学の関係を探る

文学は、本という形だけで読まれるものではない。小説が映画やドラマ、漫画、ゲームなどに展開されることもあれば、SNSを通じて作品の解釈や感想が広がることもある。

例えば、同じ小説が映画化されたとき、登場人物の描写や物語の展開はどのように変わるのだろうか。原作と映像作品を比較すれば、文字による表現と映像による表現の違いや、それぞれのメディアが持つ特徴を考えることができる。

また、作品が出版された当時と現代とで、読者の受け止め方が変わることもある。文学がどのように読まれ、社会の中でどのような意味を持ってきたのかを研究することも、現代の文学研究の重要なテーマだ。

コラム|スポーツとはどうつながる?

文学とスポーツ。一見すると、別々の世界のように思えるかもしれない。しかし、スポーツを題材にした小説や詩、選手の経験を描いたノンフィクションなど、両者にはさまざまな接点がある。

例えば、スポーツを題材にした小説では、勝利を目指す選手の葛藤や、仲間との関係、敗北からの再起などが描かれる。作品を読み解くことで、競技の結果だけでは見えてこない選手の心理や、スポーツを通じて形成される人間関係について考えられる。

また、スポーツは社会や文化を映し出す題材でもある。オリンピックや国際大会を扱った文学作品を研究すれば、国や地域への帰属意識、ナショナリズム、ジェンダー、差別といった問題が、スポーツとどのように結びついてきたのかを探究できる。

さらに、スポーツを描く言葉そのものにも注目できる。選手の活躍が新聞や雑誌でどのように表現されてきたのか、スポーツ選手の自伝がどのような人物像をつくり上げているのか。こうした研究は、文学だけでなく、メディア研究や文化研究ともつながっている。

スポーツの魅力は、記録や勝敗だけで決まるものではない。そこにある人間の経験や感情、社会との関係を、物語や言葉を通して探究することもできるのだ。

どこで学べる?

日本文学や外国文学を専門的に学ぶなら、文学部を中心に、文学科や日本文学科、英文学科、外国語学部などが選択肢になる。ただし、学部・学科の名称やカリキュラムは大学によって異なる。作品を研究することに重点を置くのか、言語や文化も幅広く学びたいのかによって、選び方も変わってくる。

文学部・文学科

文学作品を専門的に研究するための知識や方法を学ぶ。作品の精読や文学史、批評理論、資料の調査方法などを学び、講義や演習を通じて、自分の関心に沿ったテーマを深く探究する。

例えば、ある作家の作品を複数読み比べたり、特定の時代の文学作品に共通する特徴を調べたりする。最終的には、資料や先行研究を踏まえながら、自分なりの問いを立て、卒業論文などの形で研究成果をまとめることが多い。

「小説や詩を深く読み解きたい」「文学を通して人間や社会について考えたい」という人に向いている。

日本文学科・国文学科

日本の古典から近現代の文学まで、日本語で書かれた作品を中心に学ぶ。『万葉集』や『源氏物語』などの古典文学、近代小説、現代文学、詩歌など、研究対象は幅広い。

古典を研究する場合は、古文の読解や当時の文化・歴史に関する知識が必要になることもある。近現代文学では、作品が発表された雑誌や新聞、作家の書簡などを調査し、作品の成立過程や社会的背景を考える研究も行われる。

「日本の文学や文化を深く知りたい」「昔の作品が現代にどのようにつながっているのかを考えたい」という人に向いている。

英文学科・外国文学系の学科

英語圏をはじめ、さまざまな国や地域の文学作品を学ぶ。シェイクスピアの戯曲や近現代の小説、詩などを読み、作品の表現や歴史的背景、文化的な意味を考える。

外国文学を専門に学ぶ場合、作品を原文で読むための語学力も重要になる。ただし、語学を身につけること自体が目的ではなく、言葉を通じて作品や文化への理解を深めることが大切だ。大学によっては、英米文学だけでなく、フランス文学、ドイツ文学、中国文学などを専門に学べる。

「海外の小説や詩に興味がある」「異なる文化や価値観を理解したい」という人に向いている。

外国語学部・国際系の学部

外国語学部では、言語の習得に加え、その言語が使われる地域の文学や文化、歴史などを学べる場合がある。国際系の学部でも、異文化理解や比較文化の一環として文学を扱うことがある。

文学作品を通して、その国の人々の考え方や社会の変化を知りたい人にとっては、有力な選択肢だ。ただし、文学研究の専門科目がどの程度用意されているかは大学によって異なるため、カリキュラムを確認しよう。

文芸学科・創作系の学科

文学を研究するだけでなく、自分で小説や詩、戯曲などを書くことを中心に学ぶ学科もある。創作の実践や作品の講評、編集・出版に関する学びなどを通じて、表現力を磨いていく。

文学作品を分析する学びと、自ら作品を生み出す学びは、関連しながらも異なるものだ。「文学を研究したい」のか、「自分で物語や文章を書きたい」のかによって、学科選びの際に確認したいポイントも変わってくる。

学科名だけではなく、どのような作品や時代を研究できるのか、どんな演習があるのか、どの教員がどのようなテーマを扱っているのかまで調べてみよう。自分の好きな作家や作品が、大学での学びにつながるかもしれない。

学んだらどうなれる?

文学を学ぶと、文学研究者や教員などの専門的な道を目指せるほか、文章を扱う仕事や、文化を伝える仕事などにも知識を生かせる。文学部で身につく力は、作品に関する専門知識だけではない。文章を丁寧に読み、根拠をもとに考え、自分の考えを他者に伝える力も、さまざまな仕事で役立つ。

研究者・大学教員

大学や研究機関で、日本文学や外国文学について研究する道がある。作品の表現や歴史的背景、作家の創作活動などを調査し、新たな解釈や知見を生み出していく。

大学教員を目指す場合は、大学院に進学して専門的な研究を深めるのが一般的だ。研究成果を論文や書籍として発表するほか、学生への教育や研究活動にも携わる。

出版・編集・ライター

出版社や編集プロダクション、Webメディアなどで、書籍や記事を企画・編集したり、取材や執筆を行ったりする仕事にも、文学の学びを生かせる。

文学研究で培う、文章を細かく読み解く力や、資料を調べて情報を整理する力は、文章を扱う仕事の土台になる。作品や文化に関する専門知識を生かして、書評や文芸記事、文化に関するコンテンツを制作する道も考えられる。

教員・教育関係の仕事

中学校や高校の国語・英語などの教員を目指す道もある。文学作品を読み、言葉の意味や表現の工夫を考える経験は、授業で作品の魅力を伝えたり、生徒の読解力を育てたりする際にも役立つ。

ただし、学校教員になるには、教員免許の取得や採用試験など、必要な条件を満たすことが求められる。学科によって取得できる免許が異なるため、進学先を選ぶ段階で確認しておこう。

図書館・文化施設・出版文化を支える仕事

図書館や文学館、博物館などで、資料の収集・整理、展示の企画、文学や文化に関する情報発信に携わる道もある。作品や資料の背景を理解し、その価値を多くの人に伝える仕事だ。

職種によっては、司書資格や学芸員資格などが必要になる。文学に関する知識を深めるだけでなく、資料の扱い方や展示、教育普及などについて学ぶことも重要になる。

さまざまな仕事で、言葉を読み解く力を活かす

文学を学ぶことで得られる力は、文学に直接関わる仕事だけに限られない。企業の広報や企画、マーケティング、一般企業の事務・管理部門などでも、情報を正確に読み取り、複雑な内容を整理し、相手に伝わる形で表現する力は役立つ。

たとえば、広告や広報の仕事では、言葉の選び方によって受け手の印象がどう変わるかを考えることがある。企画の仕事では、異なる立場の人の考えを理解し、情報を整理して提案につなげる力が求められる。

もちろん、文学を学べば特定の職業に直結するわけではない。実際の仕事では、職種に応じた専門知識や実務経験も必要になる。それでも、文章を読み、背景を調べ、複数の視点から考え、自分の言葉で伝える経験は、幅広い場面で土台となる。

文学を学ぶことは、作品の知識を増やすだけではない。言葉の奥にある意味を考え、自分とは異なる立場や時代を生きた人々に想像力を働かせることでもある。その経験は、仕事でも日常生活でも、他者や社会を理解するための手がかりになるだろう。

もっと深く知るためのおすすめ書籍

1. 『文学入門』

著:桑原武夫/岩波新書

文学とは何か、文学を読むことにはどのような意味があるのかを考えたい人におすすめの入門書。文学作品を楽しむことと、文学について考えることの関係を知るきっかけになる。文学を大学で学ぶことに興味を持った人が、最初の一冊として手に取りやすい。

2. 『ここから始める文学研究――作品を読み解くために』

編著:荒井裕樹・五井信・瀧田浩/みずき書林

文学研究の具体的な方法を知りたい人におすすめ。作品を読むことと感想を述べることは、どこが違うのか。作品が成立した背景や語りの仕組み、ジェンダーや社会との関係など、さまざまな視点から文学を読み解く方法を学べる。大学での文学研究をイメージするのにも役立つ一冊だ。

3. 『文学とは何か――現代批評理論への招待』

著:テリー・イーグルトン/岩波文庫(上下巻)

文学をどのように定義できるのか、作品の意味はどのように生まれるのか。文学研究の理論的な考え方に触れたい人におすすめ。文学を個人の感想だけで捉えるのではなく、社会や歴史、思想との関係から考える視点を得られる。入門書を読んだあと、さらに深く学びたい人に向いている。