観光学とは?

観光学は、人が旅をする理由や観光産業の仕組み、観光が地域社会や経済、文化、環境に与える影響などを研究する学問です。

たとえば、なぜ人は特定の地域を訪れたいと思うのでしょうか。観光客が増えると、地域の仕事や暮らしはどう変わるのでしょうか。歴史的な建造物や自然環境を観光資源として活用しながら、どのように保全していけばよいのでしょうか。こうした問いを、さまざまな視点から考えます。

観光学には、主に次のような領域があります。

観光経営・観光ビジネス:観光を支える産業はどう成り立っているのか

旅行会社、宿泊施設、交通機関、テーマパークなど、観光に関わる事業の仕組みを研究する分野です。旅行者のニーズをどのように把握するのか、サービスの質をどう高めるのか、観光事業を持続的に運営するには何が必要なのか、といったテーマを扱います。

観光経済学:観光は地域や経済にどのような影響を与えるのか

観光客の消費や観光産業の雇用、地域への経済波及効果などを研究します。観光客が増えたとき、地域のどの産業にお金が流れるのか。観光振興への投資は、地域経済にどのような変化をもたらすのか。データや経済理論を用いて、観光の経済的な側面を分析します。

観光地理学:人はなぜその場所を訪れ、地域はどう変わるのか

観光地の立地や交通、自然環境、景観、地域ごとの特色などを研究します。観光地がどのように形成されるのか、交通網の整備によって人の流れがどう変わるのか、観光客の集中が地域にどのような影響を与えるのか、といった問題を扱います。

観光社会学・観光文化:観光は人々の暮らしや文化とどう関係するのか

旅行者の行動や観光に対する価値観、観光地で暮らす人々と訪問者の関係などを研究します。観光によって地域の文化がどのように紹介され、受け継がれ、時には変化していくのかも重要なテーマです。

観光政策・持続可能な観光:観光と地域の暮らしをどう両立させるのか

観光振興のための制度や政策、地域住民と観光客の関係、自然環境や文化財の保全などを扱います。観光客を増やすことだけを目標にするのではなく、地域の暮らしや環境を守りながら観光を続けていくにはどうすればよいかを考えます。

これらの領域は互いに関係しています。たとえば、ある地域で観光客を増やす計画を立てる場合、経済的な効果だけでなく、交通や宿泊施設の整備、地域文化への影響、住民の生活環境なども考える必要があります。

観光学では、観光を一つの側面から見るのではなく、複数の視点を組み合わせて、その仕組みや課題を明らかにしていきます。

具体的にどんなテーマや研究がある?

観光学の研究テーマは、旅行者の行動から地域の将来像まで幅広くあります。ここでは、具体的な研究例を紹介します。

観光客の行動:人は何をきっかけに旅先を選ぶのか

旅行先を決めるとき、人は何を重視しているのでしょうか。景色や食事、歴史、価格、SNSで見た情報など、旅先を選ぶ理由はさまざまです。また、同じ観光地でも、年齢や同行者、旅行の目的によって、訪れる場所や過ごし方が変わることがあります。

アンケートやインタビュー、位置情報などのデータを分析することで、旅行者の行動やニーズを理解し、観光地の情報発信やサービスの改善につなげる研究が行われています。

観光と地域経済:観光客が訪れると地域はどう変わるのか

観光客が宿泊施設や飲食店、土産物店などでお金を使うと、地域の事業者の売り上げや雇用に影響を与えます。一方で、観光によって生じた利益が地域のどこに還元されるのか、地域外の企業に流出していないか、といった点も重要です。

観光客の消費額や地域内の産業構造などを調べ、観光が地域経済にもたらす効果や課題を分析します。こうした研究は、地域の観光振興策を考える際の基礎になります。

観光と地域文化:文化や歴史をどのように伝えるのか

歴史的な町並みや伝統行事、地域の食文化などは、観光の魅力になることがあります。しかし、観光客に分かりやすく紹介するために文化の一部だけが強調されたり、地域の人々にとって大切な行事が観光向けに変化したりする場合もあります。

観光学では、文化を観光資源として活用することの意義や課題を調べ、地域の人々が大切にしているものを守りながら、その魅力を伝える方法を考えます。

オーバーツーリズム:観光客の集中による問題をどう解決するのか

特定の観光地に多くの人が集まると、交通機関や道路の混雑、ごみの増加、騒音、住民の生活への影響などが生じることがあります。こうした問題に対して、訪問時期や時間帯を分散させる方法、観光客の移動を管理する方法、地域住民と観光事業者が協力する仕組みなどが検討されています。

観光客を増やすことと、地域の暮らしを守ることをどのように両立させるかは、現代の観光学における重要なテーマです。

観光と自然環境:自然の魅力を守りながら観光を続けるには

山や海、森林、野生動物など、自然環境を目的に訪れる観光もあります。しかし、観光客の増加は、自然環境への負荷や野生動物への影響につながることがあります。

自然環境の保全と観光利用をどのように両立させるのか。地域の自然を守りながら、訪問者にその価値を伝えるにはどうすればよいのか。エコツーリズムなどの取り組みを通じて、持続可能な観光のあり方が研究されています。

このほかにも、観光と交通、旅行情報のデジタル化、宿泊施設の経営、インバウンド、観光地のブランドづくりなど、多くのテーマがあります。身近な旅行の疑問から、地域や社会の将来に関わる問題まで、幅広く研究できることが観光学の特徴です。

コラム|スポーツとはどうつながる?

スポーツは、人を移動させ、地域に人の流れを生み出す観光の重要なきっかけになります。

たとえば、サッカーや野球の試合を観戦するために遠方からスタジアムを訪れる人や、マラソン大会に参加するために地域を訪れるランナーがいます。また、スポーツ合宿やキャンプ、サイクリング、スキーなどを目的とした旅行もあります。こうした、スポーツを観戦したり体験したりすることを目的とした観光は、スポーツツーリズムと呼ばれます。

スポーツツーリズムの研究では、大会や試合が地域の宿泊、飲食、交通などにどのような経済効果をもたらすのか、スポーツ施設を地域の観光資源としてどう活用するのか、といったテーマが考えられます。

一方で、大会開催に伴う交通の混雑や施設整備の費用、イベント終了後の施設の活用なども検討すべき課題です。スポーツイベントを開催すれば必ず地域が活性化するわけではなく、地域の特性や運営方法によって効果は変わります。

スポーツをきっかけに人が訪れ、その地域の食や文化、自然にも触れる。観光学の視点からは、スポーツを競技としてだけでなく、人と地域をつなぐ仕組みとして捉えることができるのです。

どこで学べる?

大学で観光学を学ぶ場合、観光学部や観光学科が代表的な進学先です。そのほか、地域政策系、経営学系、地理学系、国際系などの学部・学科でも、観光に関する研究や授業が行われています。

主な進学先として、次のようなものが挙げられます。

  • 観光学部・観光学科:観光の基礎理論から、観光ビジネス、地域づくり、観光政策、文化や環境まで、幅広いテーマを学べます。
  • 経営学部・商学部:旅行会社やホテル、レジャー施設などの経営、マーケティング、サービス産業の仕組みなどを学び、観光ビジネスに関心を深められます。
  • 地域政策・地域創生系の学部:観光を地域活性化の手段の一つとして捉え、地域資源の活用、まちづくり、行政や住民との協働などを学べます。
  • 地理学・人文社会系の学部:観光地の形成や人の移動、地域文化、観光と環境の関係などを、地理学や社会学などの視点から研究できます。
  • 国際系の学部:国際観光や異文化理解、外国語、国際交流などを学びながら、海外からの旅行者や国境を越えた人の移動について考えられます。

観光学を学ぶうえでは、講義で理論を学ぶだけでなく、観光地の調査やフィールドワーク、地域の事業者と連携した実習などを経験できる大学もあります。実際の地域を訪れて観察したり、観光客や住民に話を聞いたりすることで、教室で学んだ知識を具体的な課題と結びつけられます。

また、観光を研究するには、経済や経営の知識だけでなく、統計データを読み解く力、地域の歴史や文化を理解する力、調査結果を整理して伝える力なども重要です。どのような力を身につけたいかによって、適した学部・学科は変わってきます。

大学を選ぶ際には、観光学部という名称だけで判断せず、観光ビジネス、地域づくり、観光文化、環境、データ分析など、どの領域に力を入れているのかを調べるとよいでしょう。実習やフィールドワークの内容、教員の研究テーマ、卒業研究の事例なども、進学先を比較する手がかりになります。

学んだらどうなれる?

観光学を学ぶと、旅行・宿泊などの観光産業だけでなく、地域づくり、マーケティング、文化・環境の保全など、幅広い分野で知識を生かせる可能性があります。

旅行・宿泊・レジャー産業で働く

旅行会社、ホテル、航空・鉄道などの交通事業者、テーマパーク、観光施設などは、観光学で学んだ知識を生かせる代表的な進路です。旅行者のニーズを把握し、魅力的な旅行商品やサービスを企画したり、観光施設を運営したりする仕事があります。

地域の観光振興やまちづくりに携わる

自治体や観光協会、地域の事業者などと連携し、地域の魅力を発信したり、観光客を呼び込む取り組みを企画したりする仕事です。地域の歴史や文化、自然などを理解し、住民の暮らしにも配慮しながら観光のあり方を考える力が求められます。

マーケティングや商品・サービスの企画に活かす

旅行者の行動やニーズを分析し、商品やサービスの企画、情報発信、販売戦略などに携わる道もあります。観光に限らず、人がどのような理由で商品やサービスを選ぶのかを理解する力は、さまざまな業界で役立ちます。

文化や自然の魅力を伝える仕事に関わる

博物館や文化施設、自然体験施設、観光案内など、地域の文化や自然の価値を伝える仕事も考えられます。観光客に魅力を伝えるだけでなく、文化財や自然環境を保全し、地域の人々と協力しながら活用する視点も重要です。

観光に関する調査・研究を続ける

大学や研究機関、民間の調査機関などで、観光客の行動や地域経済、観光政策などを研究する道もあります。統計データの分析や現地調査を通じて観光の課題を明らかにし、地域や事業者が施策を考えるための知見を提供します。

観光学で身につくのは、旅行に関する知識だけではありません。人の行動を理解する力、地域の資源を見つける力、データや現場の情報から課題を発見する力、複数の立場を考慮しながら解決策を検討する力も重要です。

観光をきっかけに地域や社会の仕組みを学ぶことで、人と場所をつなぎ、地域の魅力や課題を発見する仕事へと関心を広げていくことができます。

もっと深く知るためのおすすめ書籍

観光学に初めて触れる人は、まず観光の仕組みや研究領域を幅広く紹介する入門書から読むと、学問の全体像をつかみやすくなります。

1. 『入門 観光学 改訂版』竹内正人・竹内利江・山田浩之編著(ミネルヴァ書房)

観光とは何かという基本から、観光の経済的な効果、観光産業、地域社会など、観光学の主要なテーマを幅広く扱う入門書です。観光学の全体像を理解し、大学でどのようなことを学ぶのか知りたい人に向いています。

2. 『観光学入門―ポスト・マス・ツーリズムの観光学』岡本伸之編(有斐閣)

観光の歴史や観光行動、観光と文化、経済、環境、地域社会などを取り上げる大学向けのテキストです。観光を旅行産業だけでなく、社会や文化との関係から理解したい人におすすめです。刊行から時間が経っているため、現在の観光動向については新しい資料と併せて読むとよいでしょう。

3. 『ここからはじめる観光学―楽しさから知的好奇心へ』大橋昭一・山田良治・神田孝治編(ナカニシヤ出版)

観光を経営、地域再生、文化などの観点から紹介する入門書です。旅行の楽しさを出発点に、観光が地域や社会とどのようにつながっているのかを考えたい人に向いています。